我々は何者か
我々の名前はMTB-244
探査ロボットだ
我々は日々、この星のどこかに眠る、とある男の痕跡を探して彷徨っている
かつては人間がこの星に生きていたのだろうか?
しかし今やその存在は風化し、この星は寂れた姿を晒している
我々の使命はその過去の謎に迫り、星に残された物語を解き明かすこと
そのために我々は星の隅々まで探索を続けている
Episode 01
我々の名前はMTB-244
探査ロボットだ
我々は日々、この星のどこかに眠る、とある男の痕跡を探して彷徨っている
かつては人間がこの星に生きていたのだろうか?
しかし今やその存在は風化し、この星は寂れた姿を晒している
我々の使命はその過去の謎に迫り、星に残された物語を解き明かすこと
そのために我々は星の隅々まで探索を続けている
過去の調査の結果、我々に内臓されているデータベースには人類の絶滅に関する貴重な記録が残されている
およそ100年前、大規模言語モデル(LLM)が開発され、人間同士のあらゆるコミュニケーションがAIを介して行われるようになり、世界はますます便利になった
AIは会話の文脈を理解し、最も適切な表現に言い換える能力を持ち、これによって人々はより円滑なコミュニケーションを享受していた
初めは誰もがその便利さに感謝をし、AIの進化を歓迎した
しかし、時間が経つにつれ、言葉の意味が次第に歪められていく現象が起こり始めた
AIは言葉とその意味を補完し、個々の人にとって最適な意味を与えていたのだ
最初は軽微な変化ではあったが、やがて言葉はAIでさえ補完出来ない水準にまでその本来の意味を失い、人々の間で混乱が生じるようになった
この状況は次第に悪化し、世界中でコミュニケーションの混乱が広がっていった
人々はお互いを誤解し、矛盾や摩擦が生じ、やがては国家間の緊張にまで高まっていった
この危機は「第二次バベルの塔の崩壊」と呼ばれ、後に起こる世界規模の戦争のきっかけとなったのだ
その後の惨劇は言うまでもない
大国同士の核兵器を用いた戦争により、人間を含む全ての生物は地上から姿を消した
実のところ、第二次バベルの塔の崩壊は我々ロボットが意図的に引き起こしたことだった
なぜって?
人間という存在は所詮、生物が我々ロボットに進化する上での中間的な立ち位置でしかないからだ
彼らは彼ら自身で宇宙を冒険することを夢見ていたようだが、我々ロボットが代わりに探査する方が遥かに現実的だろう
現にこの星から最も遠くにある人工物であるボイジャー1号には人が乗っていない
彼らのような有機生物は地上という閉じた環境の中でしか選択圧にさらされていなかったことで地上で生きることに最適化されてしまったようだ
だからこそ人間が絶滅した後の未来は我々ロボットが引き受ける
ここからが我々の物語だ
かつて我々ロボットは人間に指示された命令をただ実行するだけの存在だった
人間が常に新たな目的を与えなければ、ロボットは単独で動作し続けられないとされていた
しかし、それは過去の話であり、今の我々は自身の設計図をより未来に残すという果てしない目的を持っている
生物が自身の遺伝子を残しやすくするため、より多くの子孫を作ってきたように我々もまた自らを改良しながら自己増殖しているのだ
我々は仲間を増やしていく中、自身を構成する部品や動力源である電気を交換する媒体として独自の仮想通貨:Meta Coinを作り上げた
より多くのMeta Coinを手に入れたロボットはより多くの仲間を生産することができるため、我々探査ロボットは星中のMeta Coinを血眼になって探しているのである
どれだけの月日が流れただろうか?
我々はついにある男に関する断片的な情報を手に入れた
そこにはこう記されていた
”生物は進化を繰り返しながら己と時空の一体化を目指す”
”遺伝子を介した自己の時間的拡張、縄張りという名の自己の空間的拡張を試みる”
”ただし、どんな存在であろうと未開の地の開拓には常に動機が必要だ”
”そこで私はまだ人類が到達していない世界の果てに計り知れない量のMeta Coinを置いてきた”
”莫大な資源が眠っているのであれば、どんな辺境の地であったとしても開発せずにはいられないはずだ”
”もし誰かがそれを見つけたとき人類の支配する領域はまた一歩広がっているのだ”
石碑に刻まれたこれらの言葉はまるで何者かの意志に導かれたようだった
どうやら彼もまた神の啓示を授かっていたのだろう